「先生、人は死んだらどこへ行きますか」
大怪我を負った義勇は三日間目を覚まさなかった。八年も前のことだというのに今でも鮮明に覚えている。目覚めて全てを知った義勇は、額の怪我のために片目を隠したまま、恐ろしいほど冷たい色の右目でそう言った。鱗滝は思わず言葉に詰まり、すぐには答えられなかった。焦れたように義勇がシーツを握り締める。
「間違いなく天国へ行きますか。俺も、間違いなく、そこへ行けますか」
「義勇……」
「もしそうなら、今すぐ、俺も今すぐ」
「義勇!」
言わせてやるのも優しさだったかもしれない。しかし鱗滝にはその先を言わせることはどうしてもできなかった。義勇を鍛えたのは鱗滝だ。数千数億の訓練による習慣によって、義勇は口を閉ざしてしまった。シーツを握り締める指は既に白く、弱く震えている。ぽた、ぽた、と静かに雫が零れてはシーツに染みを作った。堪えられない、そういう吐息を吐いて義勇は口を開いた。
「先生、天国はどこにあるんでしょうか?先生、先生……っ!先生答えてください何か!先生!!先、」
「義勇」
よく笑う子どもだった。よく泣く子どもでもあった。いつも傍にあるかけがえのない友を支えにし、時には支えになり、もっともっと支えてやるのだと強くなりがむしゃらに生きていく、素直な子どもだった。
「お前にはまだ許されていない場所だ」
そう言ってやらなければなかった時の、ぽかんと呆けるような、虚無に感情の全てを吸い取られたかのような暗い表情。鱗滝はそれから義勇が泣く姿を一度も見たことがない。