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弟妹同盟。(モクバ+静香+ほんのり表海)



「えっと……この前、イタズラで海馬さんに心配をかけてしまったみたいなので、謝りたくって……」
「もうその話はいい。終わったことを掘り返される方が不愉快だ」
「ごめんなさい……」
「いいと言っているだろう!」

 ついに声を荒げてしまった。海馬としては、もうとっくにそんな話忘れているどころか、覚えているかいないかの瀬戸際と言っていいレベルだ。おまけに静香が関係していたなど一言も聞いていない。そんなことを今になってぐだぐだと喚かれても迷惑なだけである。だが静香は海馬の声に少し怯んだ程度で、まだ引き下がる気は無いようだ。

「でもやっぱり何かお詫びしたいんです!だから……私、今日一日、モクバくんの代わりに海馬さんの妹になります!」

 一瞬、何を言われたのか本気で理解できなかった。

 事態の進行というものには、必ず然るべき順序がある。しかし静香には全くその順序が成立していない。詫びたい→妹になるでは途中式が不完全過ぎるだろう。怖気と寒気が走る背筋に活を入れながら、極めて真剣なその顔を見下ろした。

「モクバはどこに居る」
「遊戯さんのところにお兄ちゃんと一緒に!」
「……それでオレが納得すると本気で思ったのか」
「はい!」
「それは残念だったな。オレにとってそれは詫びにはならん!さっさとあの脳に何も詰まっていない人間とも呼べん兄のところへ帰れ!」
「……海馬さんは、お兄ちゃんが嫌いなんですか?」

 ため息が勝手にこぼれ出た。まるで会話が成立している気がしなかったからだ。ここまで来ると怒鳴る気も起きない。笑いでも出そうだ。

「ああ。ああいう身の程も知らん馬鹿がオレはこの世で最も嫌いだ」
「やっぱり……そうなんですね……」
「そうだ。その妹である貴様がここに存在していることがオレには許せん。分かったらさっさと出て行け。それとも家政婦と同じようにコキ使われたいのか?気が済むまで掃除だの何だの下働きさせてやるぞ」
「掃除!掃除すればいいんですね!分かりました!」

 海馬は完全に選択を誤ったようだった。言葉の通じない人間にいくら言葉を尽くしても無駄なのだ。嬉々として部屋を出て行く静香は、完璧にチャンスを掴んだ者の顔である。

「行って来ます!お兄ちゃん!」
「誰がお兄ちゃんだ!」

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