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弟妹同盟。(モクバ+静香+ほんのり表海)



「遊戯ー!どうしたっ!そんなんじゃここまで届かねーだろ!」
「お兄さんもう疲れましたー!」
「モクバの方がまだいい球投げてるじゃねーか!なあモクバ!」
「おう!コツが掴めりゃカンタンだぜぃ!」
「コツなんか掴めたら十八年間運動音痴やってないよ!」

 最初は乗り気ではなかったのだが、やっていくうちに段々楽しくなってきた。ただボールを投げ合っているだけのはずなのに不思議だ。考えてみれば、施設にいた時も室内でばかり遊んでいたから、こうやって思いっきり汗だくになって遊ぶのは初めてかもしれない。

「よーし!まだまだー!」
「ねー兄ちゃんたちー」
「んあ?」

 声をかけてきたのは、それぞれバットやボールを手にした少年たちだ。土手を降りてこちらに集まってくる。

「今からここで野球やんだけど」
「どけって?」
「イヤなら一緒にやろーぜ!丁度人数少ないんだよ!」
「まあ、オレはいいけど……」
「じゃあボクはベンチをあっためるポジションで……」
「ベンチねーだろ!」
「モクバは?」

 城之内と遊戯、それからたくさんの少年たちがこちらを見ている。もっとたくさんの人数相手にプレゼンをしたりスピーチをしたりすることもあったのに、馬鹿みたいに緊張した。だからぶっきらぼうな言葉しか出てこなかったのは仕方ないのだ。

「……やる」

「楽しかったね!」
「結局こんな時間まで野球しちまったな……。何だかんだ言って遊戯も活躍してたじゃねーか。ストライクばっかだったけど」
「ボクずっと守備やっときたかったよ!モクバくんもすごかったねー。ホームラン三回くらい打ってたじゃないか!」

 楽しかったか、と問われて頷くしかなかった。それ以外に言葉さえ出てこなかった。ゲームで勝った時と同じくらい興奮している。初めは難しくても、勝機が見えれば簡単になる。それはどんなゲームだってスポーツだって一緒なのだ。友達を作る時でさえ。

「さーて、そろそろ帰るか。静香も心配だし」
「そう言えばボクたちが出かけてる間に連絡あってたらどうするの?城之内くん」
「あっ……!やべ!急ぐぜ!」
「冗談だよ、大丈夫だってば!」

 夕焼けが歩いている道に長く黒い影を伸ばしている。いつか、施設から抜け出して、昔の家に帰ろうとしたことがあった。結局迷子になっただけだったけれど、兄に手を引かれて帰った道もこんな夕焼けだった気がする。

「兄貴らしいことは何にもできなかったけどよ。どうだった?モクバ」
「……早く兄サマに会いたいかな!やっぱ兄サマが世界で一番だぜぃ!」
「お前ぇ!」

 城之内に小突かれて笑う。でも今日という日が楽しくなかったわけでは無いのだ。むしろ逆だった。ずっと忘れかけていたことを思い出せた気がする。

「でも、ま、城之内もまあまあいい兄サマだったぜ!」
「ボクは?」
「遊戯も弟だろ!」

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