兄サマと一人っ子
「……まったく、付き合う人間はよくよく選べと普段から言っているというのに……」
「うん、モクバくんはよく選んでると思うよ!」
海馬の視線が突き刺さってくるので、わずかに目を逸らした。
「貴様のような人間が唆すからあのようなことをするのだ!わざわざここまでノコノコと出てきたんだ。オレの話をしっかりと聞く覚悟はできているということだな?」
「えー!決闘の覚悟はいつでもできてるんだけど……お説教はちょっと……」
「何が説教だ!当然の抗議だ!」
モクバから出て行った後、海馬はこの調子で不機嫌だ。遊戯はそのイタズラの現場に立ち会ったわけでもないので、詳しい海馬の反応は知らない。だが海馬のことだから、一瞬でも本気で心配して、イタズラに引っかかった自分が腹立たしいのだと思う。
「いいなー……」
「突然何だ」
「兄弟だよ兄弟。ボクも欲しかったなーってね。さすがにもう弟や妹はできないだろうしなあ」
兄弟喧嘩の話などを聞くと、一人っ子って気楽でいいかなと思わないでもない。だがやはりこういう兄弟の姿を見ていると、羨ましく思ってしまうのだ。
「あ、そうだ」
「……何だ」
「じゃあ、今日はボクが海馬くんのお兄ちゃんってことで!」
「何を言っている貴様は……」
「ダメだよ海馬くん、お兄ちゃんって呼ばないと!」
海馬は怒りを通して呆れ顔で、どっかりとソファーに座り込んだ。いつもは決闘のためにその正面に座るが、今日は横に腰掛けて追い縋る。
「貴様のような男は兄でも弟でもお断りだ」
「じゃあモクバくんが弟で良かったね」
「当たり前だ!このオレの弟なのだからな」
「……やっぱりいいなー兄弟」
遊戯の駄々を聞いていた海馬は、深いため息をついて遊戯を見下ろした。組んでいた腕をほどいて身を乗り出してくる。
「貴様は、オレの兄になりたいのか」
感情の分からない静かな色の目を覗き込んで、遊戯は答えを探した。でも他のものになりたいって言ったって、どれも聞いてくれやしないくせに。
「……お兄ちゃんもいいかなって思うよ。ライバルには……もうなってるし」
「フン」
遊戯の言葉を、やはり海馬はつまらなそうに聞いている。海馬が離れていくのがもったいなくて両手を広げた。
「今日はボクがお兄ちゃんだから、甘えていいよ弟くん!」
「……蹴り倒すぞ」