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弟妹同盟。(モクバ+静香+ほんのり表海)



「静香!静香どこだ!」
「お兄ちゃん!」
「静香!」

 必死の形相で駆けつけてきた城之内は、モクバにも気づかぬ様子でまず静香を抱きしめた。それからその容態を確かめるために肩を持ったまま距離を取り、そこで初めて異変に気づいたようだった。

「お前……怪我は?怪我したっていうから……」
「あ、怪我?ここだよ。ほら、膝」

 そこに貼ってある可愛らしい柄の絆創膏をまじまじ見つめ、しばらくしてやっと城之内は硬直状態から解凍された。それから辺りに構わずバッカヤロウと怒鳴って、驚いている静香をもう一度乱暴に抱きしめた。

「驚かせんなよ……オレ、お前にまた何かあったらと思ったら……静香……」
「お兄ちゃん……」
「無事ってことだな?大丈夫なんだな?」
「うん。ごめんね」

 道行く人々が彼らをちゃんと兄妹だと分かってくれているといいが。頭の後ろで腕を組んで、城之内の大げさな挙動を観察する。

「城之内お前、シスコン?」
「モクバっ!テメータチ悪いことしやがって!寿命縮んだだろ!」
「オレは嘘言ってねーもん。さっき転んだとこ確かに見たし」

 なあ、と静香に聞くと、静香も嬉しそうに頷く。悪いとは思っているのだろうが、イタズラ成功はやはり嬉しいらしい。二人で城之内に軽いゲンコツを食らってしまった。

「つーかお前ら……いつからそんなに仲良くなってんだ?兄ちゃんは聞いてねーぞ……」
「だって言ってないもん」
「あのなあ……」

 呆れる城之内に、今までの経緯を軽くまとめて聞かせてみせた。するとやはり、城之内は車道に飛び出すなよと静香に釘を刺している。

「なるほどな。で、今から遊戯ん家行くって?」
「うん!」
「おう!オレたちだけいきなり行ってもアレだからな!頼んだぜぃ城之内!」
「そりゃあいいけど……」

 モクバは忘れていた。妹がイタズラっぽい気質を持っているとしたら、兄もそうである可能性は高いということを。城之内の顔には愉快そうな笑みが浮かんでいる。

「一個だけ条件があるぜ……?」

「わー!やめろって!携帯返せよ!」
「お前なあ、人にだけイタズラしといて仕返しされないと思ったら大間違いだぞ」
「そ、それはそうかもしれないけど!兄サマはお前と違うし!」
「オレならいいってのかよ?オレだってすっげー心配させられたんだぜ?なあ静香」
「面白そう!海馬さんどんな反応するのかなー」
「ほらー静香もこう言ってるだろ?」
「とにかくやめろってば!」

 携帯にはキーロックをかけているが、さっきいじったせいで運悪く解除されている。携帯電話の販売員のバイトをやったことがあるとか何とか、城之内は手馴れた操作で兄の番号を取り出してしまった。絶望的だ。もうこうなればヤケだと抵抗をやめ、ハンズフリーボタンを押すように指示する。

 少しだけ、羨ましいと思ってしまったのだ。あんなに心配して駆けつけてくる城之内の姿に。

 ―――トゥルルル、お決まりの電子音が鳴る。

「もしもし!もしもし!海馬か!」
『……そうだが。誰だ貴様は』
「城之内だ!それより大変なんだ!さっき偶然街でモクバがケガするとこ見てよ!今、モクバの携帯借りて電話してるんだが……!とにかく急いで来い!モクバがっ……」
『……ほう』
「ほうって何だよ!モクバが心配じゃねーのかっ?」
『では聞くが、貴様、何故モクバの携帯が使える?些細な漏洩を防ぐようキーロックをかけさせているはずだが』
「それは、本人に聞いて……」
『では喋れる状況ということだな?ならば何故モクバは自分から連絡せんのだ。そもそも何故真っ先にオレに連絡した。救急には電話したのか?』
「だから、それは……」
『声の響きがおかしい、ハンズフリー機能を使っているな。わざわざオレの声を垂れ流して何の意味がある?その携帯が使えるということはモクバもそこに居るのだろう。居なければ伝えておけ、早めに帰って来いとな』

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