「なー、見ろよこれ、もう線まっすぐ引けなくなってる」
アレンがすっかり回復したと見るや夏準は容赦がなかった。打ち上げに向けた下準備をとにかく手伝わされ、無事テーブルの上には夏準の得意料理が並んだ。しかしそのあらかたを腹に納め、ついでに普段より酒を空けた今、バイブスは宇宙を突破する勢いだ。ゲラゲラ笑いながら五線を引けなくなっている様を見せる。
「ははは……ゴキゲンだね、アレン」
「朝見たのは幻影だったんでしょうか?」
二人が何かごちゃごちゃ言っているのもいいサンプルだ。ミックスしたらいい感じのトラックになるかもしれない。
「二人とも、今度はアレ歌ってくれよ、な? いいだろ?」
「またぁ? ステージが終わった打ち上げなのにまだ歌うの? 僕たち」
「打ち上げだからだろ!」
「ロジックも何も無いですね」
呆れたため息の二重奏の後、結局二人は酔っ払いのアレンに音を重ねてくれる。
よくできた容れ物なんてもうとっくの昔に叩き壊した。今、アレンの中には二人の音が通い、血になり肉になりアレンを歌わせている。