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幸福の匙加減 (パラレル)



 病院で思ったよりも時間をかけてしまい、マーベリックとの待ち合わせに随分遅刻してしまった。しかしマーベリックは気にした様子もない。久々にゆっくりできたよ、などと笑ってくれるのでほっとした。

「……と、こういうことがあったんです」

 独特の香りのハーブティーに口を付け、病院での顛末をかいつまんで説明する。マーベリックは始終楽しげに話を聞いてくれた。人騒がせなとぼやくと、彼が能力を制御できて何よりじゃないかと諭される。

「でも、マーベリックさんは彼の経歴までは知らなかったんですか?」

 キースの能力の暴走は恐らく軍の不祥事として隠蔽されたのだろう。だがマーベリックでもその空白を知り得ることはできなかったのだろうか。キース本人に軍から特別な制約を受けていない以上、機密度は低そうに思える。そもそも、軍からの接触とはどのようなものだったのだろう。能力が制御できていないキースと、軍でマークしている人物を結びつかせようとしたのは何故なのだろうか。少し、不自然な気がする。マーベリックの立場にしては情報が欠け過ぎている。

 ふと、見つめる紅茶に影が降りた。頭に手の感触がある。マーベリックに撫でられているのだ。

「君の賢いところは嫌いじゃないが……少し急すぎたかな」

 マーベリックの言葉の意味を充分に把握するのに時間がかかって、顔をあげることができない。カップの中にはマーベリックの口元だけの笑みが映り込んでいる。

「あれだけの力だ。野に放てば暴走していい話題にでもなるかと思ったが…まるで役に立たなかった。結果的には良い駒になってくれそうだがね」
「何を……」
「おやすみ、バーナビー。君は何も知らなくていい」

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