「乃亜!待って乃亜、消えちゃ……!」
『無駄だよ。ボクはもう消える。最後の断末魔みたいなものさ。君の脳内を一時的にジャックしてるんだ』
「じゃ、じゃっく……?」
『もう危害を加える気も無いんだから安心しなよ』
響きの少し恐ろしい単語に慄く遊戯を、乃亜が笑う。こうしていると触れられそうなほど鮮明に存在を確かめられるのに、消えてしまうなんて嘘みたいだ。
『君とモクバ、なんだか似てるよ』
「え……?」
『馬鹿みたいに人を信じて、人のことを自分のことみたいに心配する。モクバなんか、あんな兄でよくあんな子に育ったよ』
「海馬くんだから……海馬くんだから、あんなモクバくんが居るんだと思うよ」
真剣に切り返したのだが、やはり乃亜のからかうような笑みはくずれない。それに少しムッとするが、気にしてもいないのだろう。
『ボクはオリジナルのデータを引き継いでるから……やっぱり君たちに会えて嬉しかった。もちろん、仕返しは忘れなかったけどね』
「そこは海馬くんちの人って感じだぜ……」
『そしてモクバの手で消えるって、なかなか感動的なシナリオだろ?』
だからモクバの傷つくことの無いように、という声は遊戯が勝手に聞いただけだ。乃亜の口からはそんな言葉ひとつも出てきていない。でも間違った推測だとも思わない。海馬家の人は、大体皆素直じゃないみたいだから。
『瀬人のことだけど、君分かりやす過ぎるから気をつけなよ』
「えっ?」
『こんなこと言えた義理じゃないけど……よろしく』
照れたように乃亜が笑った。あいつも兄弟だと呟いて、モクバが海に花を放っていたことを思い出す。よろしくされたのは、乃亜の大事な兄弟のことなんだろう。それこそ遊戯にも頼まれる資格があるのか分からなかったが、ひとつ頷く。
「―――うん」