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ハイスピード・ベータブロッカー!



「兄サマ!無事だったっ?カウンターシステムは正常に作動したぜぃ!」
「モクバ!」
「遊戯!大丈夫か!」
「城之内くん!城之内くんこそ!」

 どこで合流したのか、城之内とモクバが局長室に飛び込んできた。ピンピンしている城之内にほっとしている間もなく、その城之内に思いっきり体を揺らされた。心配してくれるのは嬉しいのだが、ちょっと酔いそうだ。

「本社のデータも完全に復旧完了したよ!ほんっと、兄サマを海馬コーポレーションから追い出そうなんて奴許せないぜぃ!兄サマは敵と接触した?結局どこのどいつだかが掴めないんだよな……」

 スーパー小学生副社長の言葉にハッとして、今度は腕を回され頭をグリグリされながら海馬を見上げる。

「……オレが独自に動いて敵は潰した。もう懸念すべきことは無い」
「本当?さすがオレの兄サマだぜー!」

 はしゃぐ弟を抱きとめるのも四日ぶりだろう。少しだけ海馬の表情も和らいでいる気がする。心配なんか最初から必要ないよ、と誰にともなく胸の内に呟いた。

「よし!解決したんだなっ!じゃあ海馬、テメーには散々貸した借り返してもらおうじゃねえか……!」
「フン、勝手についてきて暴れただけだろう。ハタ迷惑な男め」
「こいつ銃なんか持って暴れてやがったんだぜー?いくらオレが来たって言ってもその場治めるの大変だったんだからな!」
「それはオレが囮になってだな!」
「誰も頼んではいない!」
「スッゲー睨んでただろうがよ!」

 これ以上騒ぎになるのも面倒と考えたのか、じゃあ屋敷で何か美味しいもの食わしてやる、とモクバが豪気に言い放つ。きゃー男前ーなどと調子の良い城之内も乗り気のようだ。それをあからさまに不快そうな顔で睨んでいる海馬に並ぶ。

「海馬くん……その、城之内くん、すごく助けてくれたからさ……」
「フン!アレは勝手にモクバが屋敷に招いたのだ!後は知らん!」

 棘を感じる言葉と態度に苦笑する。だが、いつも通りの海馬で少しホッとしてもいる。ここのところ、大変なことばかり続いていた。

「本体、どうするの?」
「死人は蘇らない。また厄介が起こらん内に徹底的に処分する」
「そっか。そうだね……。できるだけ、手厚く葬ってあげてね」
「フン」

 返事は無い。だが、希望的な観測でその無言を受け取っておく。

「今は疲れた。些細なことは後回しだ」
「そりゃそうだよね……海馬くん、まともに食事してないんでしょ?」
「さっさと戻るぞ。ああ、その前に貴様の母親におでんは嫌いだと言っておけ。朝から匂いが鼻に突いて気分が悪かったわ!」
「え、お前おでん嫌いなのかよ?げーマジで日本人かよ……罰当たりな奴!テメーはさっさと帰れ!おでんはオレが食ってやっからよ!いいよな?遊戯!」
「やかましい!貴様は存在自体が罰当たりだ!酸素を浪費するのをやめろ!」
「兄サマ屋敷に戻らないの?だったらオレも付いてくぜぃ!な、遊戯!」
「ボクんちは大丈夫だと思うけど……」

 まず何より、海馬がもう用済みのはずの遊戯の家に行く、と言ったことが衝撃だった。遊戯が見上げていると、海馬は相変わらず不機嫌そうな仏頂面でさっさと歩き出す。それを慌てて追いかけた。

「海馬くん!」
「勘違いするな。オレは貴様の施しを受けに行くわけではない。決闘をするために行くのだ」
「え……!い、いいの?」
「いいも悪いも、それ以外で貴様の家になど行くか!」

 本当は、海馬が何故遊戯の決闘を拒否していたのかすごく気になっている。
 だが、もうそんなこと今はどうでも良かった。海馬が遊戯と真正面から向き合って、決闘をしてくれるというのなら、それ以上嬉しいことは無いのだ。

「じゃあ、その前に皆でまた銭湯行こうよ。それで、マッサージチェアに座ったらいいよ」
「……何を言っている貴様!余計なことは必要ない!決闘者たるもの……」
「えー、やっぱ闘うなら万全の人とがいいよ。それに好きでしょ?マッサージチェア」

 海馬が今にも怒鳴りそうな顔になったので、殴られるかもしれないととりあえず頭を防衛したが、それ以上の攻撃は無かった。苛々した様子でまた歩みを早くしている。絶望的なコンパスの差で、遊戯は走ってでしか追いつけない。

「海馬くん?」
「貴様は、ベータブロッカーのような男だ」
「ベータ……何?ガイジンさん?」
「喜べ。熱烈な愛の告白だぞ」
「ますます分かんないよ……」

 相変わらず苛々した様子の海馬から見るに、皮肉か何かなのだろう。でも好きと言われるのは素直に嬉しい。だから勝手に喜んでおこう、と都合良く受け止めて笑った。

「分かんないけど……ボクも君が大好きだよ」

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