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ワン・アンド・オンリー・ユー



 夕香と一緒に風呂から上がってくると、予想外の事態と対面した。いや、こうなることは必然だったのだが、豪炎寺の頭からすっかり抜け落ちていたのだ。夕香の頭をタオルで拭いてやりながら、気まずい沈黙を保っているリビングに入る。

「お帰りなさい、父さん」
「おかえり!お父さん!」
「ああ」

 テーブルに座って静かに夕飯を食べている父親の正面で、背筋を伸ばして座っている円堂が気になって仕方がない。一体いつからこうしていたのか。間違っても会話が弾んでいるようには見えなかった。キッチンからこちらを覗いているフクの表情も不安げだ。

「円堂、待たせたな。部屋に行こう」
「……うん。じゃあ、オレは」

 円堂が軽く父親に会釈して立ち上がる。一応何か話してはいたのだろうか。気にはなるが、気軽に聞ける雰囲気でもない。夕香の髪はフクにバトンタッチして拭いてもらい、円堂を連れてリビングを出ようとする。

「君は、」

 こちらを振り向かず食事を続けたまま、父親が口を開いた。円堂に話しかけているらしい。円堂がはいと返事をする。

「この前もそうだが、君は随分修也のことが気に入っているようだな」

 円堂がバッ、と思い切りこちらを振り返ってきたので、何かと思って表情に困っていると、何でもないと言いたげに小さく首を振られる。しばらく何度か唇を開けたり閉じたりしていた円堂は、意を決したように声を絞り出した。

「オレは……オレはただ、豪炎寺となら、どんなチームにだって負けない、最強のチームができると思うから。会った時からずっと」

 父親は興味なさげに気のない返事を寄越すだけだ。会話に加われない分、豪炎寺が一番気まずい思いをしている気がする。円堂の腕を引いて、こっちだと歩き出した。円堂の顔もまともに見ない。

「豪炎寺、あの……」
「オレも」
「え?」
「オレも思ってるよ。お前となら、世界だってどこへだって行けるって」

 ただ、廊下に出てそれだけはなんとか言葉にした。絶対に言っておかなければ気が済まないと思ったからだ。円堂は嬉しげな声でうん、と一言だけ答えた。

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