文字数: 9,462

ワン・アンド・オンリー・ユー



「それで……何が原因だったんだ?」
「へっ?」
「ケンカだよ。家出の原因は何だったんだ」

 キッチンで気合を入れてかき氷を作っているフクを横目に、ぼそぼそと質問する。豪炎寺の隣に座っている夕香のお絵描きを、正面からぼうっと見つめていた円堂が顔を上げる。古いかき氷機のごりごりという音で聞こえなかったのか。夕香に聞き咎めるのも困るだろうから身を乗り出して顔を近づける。

「あ、ああ……なんかその、適当に……ほら、よくあるだろ?ケンカひどくなっちゃうと原因が思い出せないっていうかさ……」
「よくあるか?」

 円堂は何故かしどろもどろだ。言いにくいことでケンカにでもなったのだろうか。だったらあまり聞くのも悪いのか。距離を測りかねてそれ以上何を言えばいいのか分からない。

「ないしょのはなし?」

 集中してクレパスを握っていた夕香が、いつの間にかこちらを見上げている。内緒と言えばそうなるんだろうか。あいまいな返事を寄越すと、何故か夕香が嬉しそうに笑う。

「えへへ、夕香もお兄ちゃんにないしょのはなしがあるんだよっ!」
「へえ、なんなんだ?」
「ないしょだから言えないもん!ね、キーパーのお兄ちゃん!」
「……円堂には内緒じゃないのか」

 いつの間にそんな話をしたのか。円堂と夕香に何度か面識があり、いつの間にか仲良くなってしまっていたのは知っていたが、それでも不思議に思うことが多い。円堂を見ると、やっぱり恥ずかしそうな顔で笑っているだけだ。

「ほら、できましたよ!」

 夕香が画用紙をテーブルの隅に追いやって歓声を上げる。運ばれてきたかき氷にかかっているのはイチゴのシロップと練乳だ。遠慮しないで食べてくださいね、と声をかけられて、円堂は言葉通りにかき氷を掻き込んで、案の定頭痛に苦しんでいた。

-+=

ご不便をおかけしますが、コピー保護を行っています。