「遅かったですね」
「お前はたった一年だろ」
桜並木を散歩するのは、遊星のこのところの日課になっていた。音沙汰のない夏も秋も冬も、不安や寂しさはあまり感じなかった。また会おうという言葉を信じていた。だから待ち人に一番見せたい風景をいつも選んで歩くクセがついて、それはそれでなかなか楽しいと思えた。
「本当は、待ってばかりは性分じゃないんだが」
「でも、オレを捕まえるのは難しかっただろ?」
遊城十代についてのデータは、遡るだけ遡ったはずだ。しかしどうしてもデュエルアカデミアで途切れてしまい、その先は噂話レベルの記録しか残っていなかった。そこで全く不安にならなかったと言えば、それはやはり嘘だ。
「ゼロ・リバースにやられたんじゃないかって思っていました。だから……良かった」
無限の道をまっすぐに進んだ先に、休める場所であったならいい。それが遊星の選んだ道だ。だからこうして十代と一瞬の交点でなく、積み重なる時間の内で再会できたことを嬉しく思う。
「あなたはあまり変わらない」
「そうか? まあ、色々あったから、少しは時間の流れが違うかもな」
少しだけ年嵩を感じられる目元を、しかし記憶と同じように十代は柔らかくした。それから、いつかのように後ろ手に隠し持っていた花の枝を遊星に差し出す。
「これ、言いたいこと」
こん中じゃ見劣りするか、桜並木を背景に十代がおどけて笑うが、遊星は首を横に振った。
「オレもあなたに見せたいものがある」
聞きたいことも話したいこともたくさんあって、それには何の制約もない。肩を並べて、同じ速度で桜並木の下を歩んだ。