いつも通りポッポタイムの誰よりも早く起きた遊星は、D・ホイールの洗車を始めていた。昔から早起きに苦労を感じない体質ではあったが、夜明け前にD・ホイールでハイウェイを走る爽快感が好きで、習慣が完璧に根付いてしまった。最初に手をつけるのはホイール・オブ・フォーチュンだ。何故なら、遊星の次に目覚めるのがそのライダーだからである。
「お前は相変わらずだな。いつ寝ているんだ」
「おはよう、ジャック」
まだ眠いのかジャックの声には覇気が無い。二年間キングとしてシティに君臨していたのはやはり伊達ではなく(と、遊星が言うと嫌味だと一蹴されるのだが)、ジャックの体には毎日の鍛錬が染みついている。いつもは朝から高いテンションに感心させられるが、どうやら春眠暁を覚えずと言うやつらしい。
「事故るなよ」
「誰に向かって言っている!」
日は昇ったとは言え、早朝からアクセル全開でジャックはスロープを駆け昇っていく。やれやれとそれを見送り、今度はブラックバードの洗車を終える。理由は言わずもがなだ。
「っはよお」
「おはよう」
「相変わらず早えんだよお前らは」
「クロウは配達が忙しいだろう。もう少しゆっくり寝たらどうだ」
「その配達がおかげさまで繁盛してるんでね。ゆっくりしてるヒマもねえんだよ」
クロウは大あくびを噛み締めながら体の関節を回している。階段を下りながら身支度を整え、配送リストに目を通す。一回に運べる量は限られているのだ。優先順位と経路を検討しつつ仕分けし、第一陣の出発と言うわけだ。
「じゃあちょっくら行ってくるぜー」
「気をつけろよ」
「分ぁってる」
ブラックバードを見送った後、遊星はやっと愛機に手を入れることになる。しかし実際に乗っているD・ホイールと他人のD・ホイールとでは気になるところは格段に違うものだ。やはり愛機には最も時間をかけるので、この順番が最も効率的ではある。シャッターや窓の向こうに感じる朝の気配が色濃くなり、人の往来も増えてきたようだ。東日がガレージにほのかに入ってくる。それをふと見上げた。
「あれ、新しいやつはもう完成して人にやったのか?」
「新しいやつ?」
咄嗟に聞き返してから、それがこのポッポタイムで聞くはずのない声であることに気がつく。体ごと振り返って更に驚いてしまった。自らの目がその声が幻聴でないことを証明している。
「十代さん……っ?」
「……なんだよ、そんなに驚いたか?」
十代は何でもないことのような顔をしているが、それは驚くに決まっているだろう。この世界を、その過去も未来もを守るために奇跡が巡り合わせた過去の偉大なデュエリストが遊星の時代に現れたのだ。確かに別れる時また会える予感はしていた。しかしそれがこんな不意の再会とはもちろん思っていない。
「どうしてここに……いえ、どうやってここに!」
「ちょ、ちょっと待て……どういうことだ?」
十代は遊星の驚きを不審そうな顔で見つめているが、それは遊星のセリフだ。もしや十代は自分が未来に来ていることに気付いていないのだろうか。
「十代さん、ここはオレたちの時代です。もしかしてまた何か世界に危機が迫っているんですか? それならオレも共に戦う」
グローブを引き抜いて腕の痣を見せた。この世界の危機に関わることならば、必ず赤き竜も遊星に応えるはずだ。しかし十代はその言葉をあいまいな表情で受け取り、それから何かに気付いたように息を吸い、額に手を当てた。
「ああー……」
「十代さん?」
「ええっとなあ……なんて言えばいいんだ……。まあ、ちょっと間違っちまったみたいなもんなんだ。安心しろ。何か危機が迫ってるわけじゃない」
「間違い……ですか」
「お前に会いに来たってのは間違いじゃないんだけどな」
お前、という言葉に一瞬違和感を覚えて疑問に思う。以前共に戦った時「キミ」と呼ばれていたからだろう。とにかく今は、そんな些細なことに意識を取られている場合ではない。詳しく話を聞こうとした時、ガレージに白い運命の輪が滑り込んできた。メットを乱暴に外したジャックは、見慣れぬ顔にすぐ気付き眉根を寄せる。
「……遊星。誰だ、コイツは」
「ジャック、この人だ。前に話しただろう、十代さんだ」
「ジュウダイサン?」
すぐには思い至らなかったらしいジャックが、顔をしかめたまま十代ににじり寄る。ジャックは背丈があり顔の彫りも深い。少し顔をしかめただけでそれらしい威圧感が出てしまう。
「あー、えーっと……」
「このちんちくりんが過去の偉大なデュエリストか? 遊星、オレを引っ掛けようとしているんじゃないだろうな」
「ち……」
「ジャック!」
「どうせなら武藤遊戯の方を見てみたかったものだがな」
「悪かったな……遊戯さんじゃなくて……」
「おはよ……なに、どうしたんだい? 騒がしいね」
言葉を失っている十代へジャックに代わって謝ろうとしたが、のんびりした声が階段から下りてくる方が早かった。この家では一番寝坊がちであるブルーノだ。深夜までの作業の影響で度々こうして遅い時間に起きてくることがある。ジャックはそんなブルーノに向かって十代の背を押した。あまりの行いに思わず声が出るが、誰も遊星のことなど気にも止めていない。
「見ろ! こいつが遊星が前に言っていた『十代さん』だそうだ!」
「えっ……! って、ことは……過去のすごいデュエリストのっ?」
ブルーノは戸惑った様子の十代の右手を取り、強く握った。共に戦った時は頼りがいのある偉大なデュエリストとしか映らなかったが、ジャックやブルーノに挟まれると少し違った印象だ。
「はじめまして! ボク、ブルーノです! 信じられない、時を超えてやってきたデュエリストだなんて!」
感動のまま十代の両腕を上下させるブルーノを止めたい。止めたいが、悪いタイミングというものは大抵重なるものだ。バタン、ドアが勢いよく開く音がする。
「遊星ー! 遊びに来たよー!」
「お邪魔します」
「お邪魔するわよ」
休日だったのが悪かった。もちろん、その後ポッポタイムに戻ったクロウも含めて十代を揉みくちゃにしたのは当然の成り行きである。どこか疲れた様子の十代にコーヒーを差し出した。クロウの許可が出たので、ジャックから押収した高価なコーヒー豆を使っている。
「すまなかった……騒がしくしてしまって……」
『まったくだよ。うるさいったらありゃあしない』
「すまない……」
『私は久々ににぎやかで楽しかったにゃ』
「うん、楽しかったぜ。デュエルも盛り上がったしな。気にしないでくれ」
十代と共にある精霊や魂にも何かしたいところだが、残念ながら遊星には何も思いつかなかった。押しかけたのはこっちだからさ、と十代は気にした素振りも見せない。やはりさすがだ。
「あなたのデュエルはオレたちのチームにいい刺激を与えてくれた。大会で絶対に役立てます」
「ああ、がんばれよ。応援してるからな」
頷いて、その言葉を余さず受け取るためにしっかりと十代の目を見据えた。WRGPに参加し、勝つことは、遊星たち、そしてこのひとつになったネオ童実野に何か新しいビジョンを見せるはずだ。そのための力を強力なデュエリストから少しでも借りることができたのはありがたい。ありがとう、礼を言うと、十代は小さく苦笑した。
「未来のお前の気持ちが分かる気がしたぜ」
夏の夕暮れの蒸した空気を振り切るように、先陣を切ってポッポタイムのドアを開けた龍亞が動きを止めたので不審に思って身を乗り出すと、そこには思いもしない人が待ち構えていた。
「っあー! 十代の兄ちゃん!」
「十代さん……!」
「あれ?」
しかしそれは、相手にとっても思わぬ出来事であったらしい。瞳を丸めてわずかに首を傾げている。そこで遊星は前回の邂逅を思い出した。どうやら今回も、何か異変や危機が迫っているわけでは無さそうだ。
「また、『間違い』ですか?」
「ああ、そうみたいだな……」
『またこの騒がしいところかい』
あいまいな表情の十代が照れた様子で頭に手を当てる。それがおかしくて遊星は思わず笑った。右手を差し出す。
「間違いでも、また会えて嬉しいです」
「あ、ああ……オレもだぜ。ここは賑やかだしな」
一瞬何のことか分からなかったらしい十代は、ユベルに促されて右手を握り返してくれた。オレもボクもと龍亞とブルーノに片手ずつ握られて、十代は呆れた笑みだ。
「今からどこか出かけるのか?」
「花火に行くんです!」
「十代の兄ちゃんも一緒に行こうよ!」
先週からずっと浮かれている龍亞と、それをうまく隠そうとして失敗していた龍可がはしゃいだ声を上げる。夜の迫る夕闇の街並みは、普段では考えられないほど人の往来が多い。花火が見えやすい場所や、会場になっている川沿いはさぞ混みあっていることだろう。
「ああ……毎年恒例ってやつか」
「いや、過去の童実野では恒例だったようだが、ネオ童実野ではこれが初めてです」
「シティとサテライトがひとつになった記念で……ってっても、十代さんには分かんねえか」
「……なるほどな」
以前少し話した、この時代についてのことを覚えていたのだろうか。十代はクロウの言葉にすんなり納得したようだ。そして口角を引き上げてチームのメンバーを見回す。
「そんな記念についてってもいいのか?」
「当たり前です!」
「むしろ一緒に来てくれれば嬉しい」
真っ先に声を上げたアキに遊星も続く。じゃあお言葉に甘えて、と答えてくれたので十代を加えた八人でゾロゾロと街を歩く。ネオ童実野の街並みをじっくり見たのは初めてらしく、十代は興味深げにあちこちを眺めている。龍亞と龍可が嬉々としてそれをガイドした。
「これに武藤遊戯でもいればもっと記念になっただろうがな」
「ほんとお前はかわいくねー後輩デュエリストだぜ!」
「お前のようなちんちくりんの先輩にかわいいなどと思われたくもな、おいやめろ! ひっぱるな!」
十代は言葉とは裏腹に心底楽しそうにジャックの髪を引っ張っている。案外子供のようなところのある人だ。そういう瞬間を見つける度、遊星はなんだか嬉しい気持ちになる。慣れた道を歩いているはずなのに、人で溢れていると全く知らない街のようだ。細心の注意を払ってはぐれないよう注意していたが、花火が始まるとたちまち仲間の塊が崩されてしまった。ドン、明るい光が夜空に舞う中首を巡らす。声を上げても、見事な花火に向けられた歓声には太刀打ちできない。途方に暮れかけた腕がぐいと引かれた。
「遊星!」
「十代さん!」
十代の顔色が花火の色に合わせて赤緑黄と明滅している。その瞳にも同じ色が踊っていた。遊星はそれを見てはじめて、今日の花火がきれいなものなのだと実感することができた。
「はぐれちまったな……さすが記念の第一回目だ。こんなに人が居るなんてなあ」
十代は掴んだ腕を一度離し、ポッポタイムを出る前の握手のようにぐっと遊星の手を握る。驚いたが咄嗟に言葉が出ない。十代は特に気にかけた様子もないから、確実にはぐれない方法を取っただけなのかもしれない。
「探そうぜ」
「あ、はい……だが、」
このままでだろうか。なんだか幼い子供の扱いを受けているような気分になって複雑だ。戸惑う遊星を十代は笑顔で振り返った。何とも表現できない笑みだ。何も言えなくなってしまう。
「ちょっとくらいいいだろ? ……できなかったからさ」
人を押し退けつつ雑踏を掻き分け、花火の音と歓声を潜り抜けて歩く。ジャックたちはまだいいが、アキや双子は大丈夫だろうか。人の熱気が夜風を熱風にしている。汗が首筋や背中、グローブに包まれた手に滲む。
「十代さんは、間違わなければどこへ行くはずだったんですか」
仲間の心配をしているはずなのに、口からは違う言葉が出た。十代は後ろを振り返らないでどんどん前に進んでいく。
「未来のお前に会いに」
「未来の……オレに」
危うく人々の声に掻き消されそうな声だった。絶対に聞き漏らしたくなくて十代により近づいて歩く。
「未来のオレは……何かあなたに迷惑をかけたりしていないだろうか」
「いいや? 遊星は遊星さ」
それは妙に遊星を安堵させる言葉だった。未来の自分が今更大きく変わるだろうとは考えにくい。だが、自分が自分であるということ、それが十代にとって迷惑でないことは嬉しいと思う。
「おっ、アレ! ジャックの頭だよな! おーい! ジャック!」
するり、十代の手が離れていく。少し名残惜しく感じた。
人の気配を感じて意識を浮上させた。瞼を押し上げる。未だ暗闇に塗れた部屋には、秋の夜のひやりとした空気が滞留していた。瞳をぼうっと彷徨わせていると、気配の正体の瞳が二つ、自分を見下ろしていることに気がつく。夜目に浮かび上がるそのぼんやりとした輪郭に、意識が一気に覚醒した。
「十代さん……!」
「悪い、起こしたか」
思わず半身を起こすと、うおっと十代が腰掛けていたベッドから離れる。こんな夜中に一体どうしたのか。焦った様子や追い詰められた様子が無いのを確認して、遊星は慎重に口を開いた。
「いや、それはいいんだが……あなたはやっぱり『間違って』いる」
「分かってる分かってる」
十代に何かを気負った様子は全く無い。再びベッドの端に腰を下ろした。ぎしりとベッドが軋む。
「分かっていたのに、どうしてここに……」
「居ちゃマズかったか?」
「いえ! 違います!」
つい声が大きくなりかけて口を噤んだ。就寝中に騒音を気にするようなデリケートな人間など存在しない男所帯だが、さすがに深夜に大声を出すのは憚られる。
「起きるまでは居ようと思ってさ」
では起きた今では帰ってしまうのだろうか。せっかく時を超えてこうして再会できたというのに。慌ててベッドから足を下ろした。足先が秋の夜にひやりと触れる。
「十代さんはここを使ってください。オレは……」
「いい、眠くないから。まだ真夜中だぜ、寝とけ」
十代は遊星を押し付けるようにして無理やりベッドに戻した。それでもまだ場所を譲ろうと身じろいだが、首を横に降られるだけだ。
「せっかく会ったのに、もったいない……か?」
「……何ですか、それは」
「お前が言ったんだよ」
あまりに内心の言葉を的確に表されていてぎくりとする。眠気に口を滑らしたのだろうか。うろたえる遊星を十代は楽しげに見下ろしている。
「大丈夫だって。他の奴らの顔も見たいからさ」
その言葉と、暗闇にわずかに光って見える茶色の瞳には妙な説得力があった。言われるままに目を閉じると、深い眠りが奔流のように押し寄せ、翌朝ブルーノよりも遅く目覚めてしまった。ジャックとデュエルの真っ最中だった十代は、よく寝てたなとそれをからかうように笑った。それをくすぐったく、しかしやはり嬉しく思う。
その日は朝からいつもの調子が少しずつ狂っていた。というのも、夜中に降った雪が路面に降り積もったおかげで、まず遊星は朝の習慣が実行できなかった。愛機ならば多少の悪天候も乗りこなす自負があるが、大会を前にしてわざわざ危険な走行に乗り出すこともない。
そして次に、ジャックがクロウとほぼ同時に起き出してきた。寒いため布団が恋しかったのだろう、二人ともいつもより遅めにガレージに下りて来た。天候にいちいち機嫌を悪くしても仕方ないと思うが、ジャックは寒さと路面の悪さに悪態を吐いている。それに呆れるのはクロウだ。この天候ではクロウの仕事は滞る一方で、ジャックよりも切実な問題を抱えていた。お前は家にいるからいいだろ、と正面から突っかかっている。ブルーノは比較的いつも通りのんびりと置き出してきたが、ジャックとクロウの口論にいつの間にか巻き込まれていた。
「みんなー! 何やってんの?」
「おい、よくこんな寒い中でじっとしてられんなあー!」
そんな空気を払拭する声が冷たい空気と共にガレージに飛び込んできた。重装備の龍亞と龍可、それからいつもの軽装でいかにも寒そうな十代が両手に雪球を抱えて立っている。一体いつからこの時代にやって来ていたのか。
「……十代さん、」
「分かってるよ!」
恒例となったやり取りも程ほどに、十代は喜色満面で腕を振り上げた。きれいな直進を描くいびつな白球は、軽快な音を立ててジャックの顔面にぶつかった。くずれた雪球がぼたぼたとガレージの床に落ち、ジャックのひどい形相を露にした。
「オレ、野球は結構得意なんだよな」
「このちんちくりんが! 何をする!」
「何って雪合戦だろ? 悔しかったらフィールドに上がって来いよ!」
「待っていろ! その減らず口今に凍ることになるぞ!」
「お、おいジャック……」
「待てよ、まだ話は終わってねーぞ」
すっかり息巻いてスロープを昇ろうとするジャックを引き止めたのはクロウだ。先ほどまでの口論をすっぱり忘れられて不機嫌を隠さない。その険悪な雰囲気を一瞥したジャックは、あごで龍亞を呼びその腕から雪球を取り上げ、クロウの顔面に命中させた。
「んだテメー!」
「お前と話すことなどもうない! 後はオレかお前か、どちらかが地に伏せるだけだ!」
「上等だ! 十代さん、組むぜ!」
「よし来たァ!」
十代が軍手をはめた両手を打ち合わせる。白い息が濛々とドアの向こうに流れていった。雪はまだちらちらと細く降り続けているようだ。ジャックがスロープを戻ってくる。
「遊星! 行くぞ!」
「いや、オレは……」
「じゃあオレ遊星とジャックのチーム! 龍可も!」
「ちょっと、それじゃ十代さんたちがかわいそう」
「じゃあボクは十代さんとクロウのチームだね」
ブルーノが浮かれた様子でジャケットを羽織った。いつの間にか乗り気になっている。最早遊星一人がガレージに残る選択肢は無さそうだった。龍亞に押し出されるようにして広場に出て、全力の攻防戦に加わる。やっている内に案外熱中して、昼前に厚い雲が切れてわずかに日光が覗くまで続けてしまった。はあ、心地良い疲労感と共に白い息が流れていく。これは汗をよく拭わないと風邪を引く。
「あー……なんか、久しぶりだぜ、こういうの」
「オレもです」
「冬は好きじゃないけど、お前のおかげで好きになりそうだ」
十代が遊星の隣に並んだ。始めこそチーム戦だったが、その内混戦状態になり、今ではジャックとクロウの個人戦に移りつつある。十代と常に共にある精霊は、それを心底馬鹿にした目で眺めていた。
「十代さんは未来のオレに会っているんですよね」
「ああ、そうだよ。……何か知りたい未来でもあるのか?」
「はい」
十代はきっと冗談のつもりだったのだろう。遊星が頷くとは思わなかったらしく、遊星の顔を食い入るように凝視している。真剣に答えているつもりだったが。その反応に遊星は思わず笑ってしまった。
「未来ではいずれ、あなたにまた会えるんですね」
十代はすぐに返事をしようとはせずに、正面に向き直っていくらか逡巡したようだ。
「ああ……約束したから」
「『オレ』とも約束してください」
遊星は遊星だ。それは十代に言われた言葉である。でも『今の』遊星もまた十代に会いたいと思っている。それを知ってほしかった。十代は困ったような顔で笑う。苦笑ともまた違う、妙に印象に残る笑みだ。
「うん。また、会いたいな」