※Acceleration No.1 -ぶちこめRed Zone- (2011-11-06) 発行ペーパー
『いいか遊星、5分だぞ!』
突然の通信は、強引かつ単純な要求と位置データを遊星に伝えた。一方的に遮断された連絡を再び繋ぎ、どういうことだと問い質してもよかったが、どうせ相手は遊星の言い分など一切受け付けていないのだ。はあ、ひとつ息を吐き出してメットを被り、スロープを滑り出したのがつい5分前。
「4分11秒06か。さすが遊星、いいタイムだ」
いや、4分11秒06前か。ホイール・オブ・フォーチュンを背にしたジャックは嬉しそうな顔で時計から目を上げる。
「当然だ。オレを誰だと思っている」
「オレを落胆させない奴だ」
ジャックの返事は明快で少しの迷いも無い。呆れを通り越してなんだか笑えてきた。表情を緩め、ジャックの隣に並ぶ。
「なるほど。これが5分のわけか」
ネオ童実野の中心を少し離れた小高い住宅街に一体何があるのかと思ったが、ひと気の無い公園の柵から見下ろすと、目下の低い屋根、遠くの背の高いビル群、その隙間を縫うハイウェイが全て夕日に染まっていた。夕暮れの茜とそれに落ちる濃い影の黒が、見慣れた街並みを一枚の絵にしている。一体どういう経緯でここを見つけたかはわからない。だがジャックはこの場所を見つけ、それを誰かと一刻も早く共有したかったのだろう。秋の日の入りは早い。
「クロウにも声かけたが無理の一点張りだ!全く情緒を解さん奴め」
「そういう問題じゃないと思うが……」
恐らく宅配の仕事中であるクロウの心中を察しつつ、遊星はそれでも苦言を口にすることができなかった。今、目の前にある景色があまりにも見事なせいだろう。
「お前と居ると、飽きない」
「当然だ。オレを誰だと思っている」
共に育ち、しかし道を分かち、そうかと思えば今はこうして美しい景色の前に肩を並べている。思うことは様々あるが、それにひとつの名前をつけるのは5分くらいじゃ無理だろう。ジャックのように快速明快には答えられない。
「……ジャックだな。それ以外に言いようがない」
「どういう意味だそれは」
一体何と言われたかったのか、遊星の言葉はジャックの意に沿ったものではなかったらしい。それをどこか愉快に思いつつ、不機嫌を隠さないその横顔を見上げる。
「クロウやブルーノと合流して外で何か食おう」
「奴がそう易々と出費を許すはずがない!行くぞ!先に注文して逃れられないようにしておくのだ!」
「……言っておくが、ワリカンだぞ」
「オレはツケしか使わんぞ!出世払いだ!」
クロウを呆れさせることは分かっていたが、たまにはこういうのも悪くないだろう。悪戯の共犯のような気持ちで、D・ホイールに乗り込んだ。