※Acceleration No.1 -ぶちこめRed Zone- (2011-11-06) 発行ペーパー
「唐突で悪いんだけどさ」
D・ホイールと向かい合って整備に熱中している背中に、ロクな挨拶もなく割り込むのは気が引けたが、今は緊急事態なのだ。そこは容赦してもらわなければならないだろう。遊星は肩のあたりをぴくりと動かして、考えるようにゆっくりと顔を上げ、それから勢い良く十代を振り返った。遊星の思考経路がそのまま動作に表れているようでなんだか面白い。目を見開き口を小さく開けた遊星は、しばらくその状態で固まっていた。瞬きを何度か繰り返し幻覚で無いことを確認している。
「驚くのも疑問に思うのも後にしてくれ。5分しかここには居られないんだ」
「……本当に唐突ですね」
説明を始めると長くなる。5分なんてあっという間だ。急かすように遊星の肩に触れ、立たせる。整備で汚れたグローブを引き抜きながら、遊星は戸惑う表情を隠さない。
「5分ですか……」
「5分じゃデュエルはできねえよなあ」
「茶を出している暇も無いようだ」
妙なところで律儀な遊星を笑いながら手を振って気遣いに答えた。うーん、十代が唸れば遊星が口元に手を当て思案する。
「……こうしている内にも時間は経っている」
「本当だよ、じゃあ絶対にやっとかないといけないこと、やっとこうぜ」
「あ、はい」
遊星が姿勢を正した。しかし具体的に何をするのかは見当がついていないのだろう、あいまいな表情だ。じゃあオレから、と遊星の腕を引き、傾いた体を受け止め、その背をポンポンと叩いた。決して誇張することは無いが、必要なところに必要なだけの筋肉がついたしなやかな背だ。
「こ……れが、やっとかないといけないこと、ですか」
「ああ」
迷いなく言い切る。言葉にするときっと長く、ややこしくなって5分では足りなくなる。それで悔しい思いをするくらいなら、大雑把でも一瞬の体温に言葉にならない何かを共有したい。
「キミも何かないのか?」
「じゃあ言っておかなければならないことが」
「そっかそっか早く言え。もうあと何分も無いぜ」
十代に腕を回されたままの遊星の口元は、十代よりもやや高いところにある。すぐに何かを言おうとして、一度それを引き結び、遊星は十代の背に触れ腕に力を込めた。
「……また会えて嬉しい」
一瞬意表を突かれたが、へへ、思わず笑みが漏れる。5分なんて時間じゃ何をするのも何を伝えるのも足りないが、今の二人の胸の内はこの5分にぎゅっと凝縮されているのだと思う。
「でもそれは言わなくても分かってたろ?オレもキミも」
5分だって1分だって、たとえ1秒だけだって、また会えれば嬉しい。今目の前にしているのはそんな相手だ。