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僕のアストロノート (パラレル)



※ 宇宙飛行士海馬瀬人

 The time has come. All engines are ready and waiting.

 新聞の文面を指でなぞる。別に深い意味はない。そこに記されるのは大方事実だけだ。遊戯が何を思ったところで、事実は変わらないだろう。

「ユギ」
「あ、はい!」

 技術者チームの、遊戯の所属するセクションのチーフに声をかけられて、慌てて時計を確認する。まだ休憩時間で間違いないはずだ。その小心者ぶりが面白かったのか、チーフは休憩中に悪いねと苦笑した。英語がほとほと苦手な遊戯のために、はっきり明快に発音してくれる。

「またセトが見つからないそうだ。悪いけど……」
「あー、彼はプールですよ。きっと」
「船外作業訓練用の?」
「いいえ、普通のプール」

 頭の中で英文を組み立てながら話すのはどうにも緊張してしまう。もう一年近くはここに居るのだ。少しは慣れてもいいものを、やはり言語の壁は厚い。いや、遊戯の頭の問題だろうか。件の『セト』ならそうに決まっている、と冷たく笑い飛ばすところだろう。

「……場所が分かっても、奴の扱いは難しいからなあ。訓練アシスタントの連中はいつも右往左往みたいだな。ユギ、行ってきてくれないか」
「あー……はあい」

 まだ休憩中ですとか、ボクは技術者であって彼のアシスタントじゃありませんとか、そもそも彼はボクの言うことも全く聞きませんとか、頭の中ではいくつかの英文が順調に組みあがっていた。だがセト――海馬瀬人が居なくなってデータが採れなくなるのは技術者チームとしても困ることである。白羽の矢が運悪く屋根に突き刺さったのだったら、黙ってイケニエにならねばなるまい。
 少しの抗議の意を表して、飲みかけの紙のカップを差し出すと、チーフは申し訳なさそうな顔でそれを受け取った。そしてその中身が甘ったるいココアであることに呆れたようだ。……放っといてよ。

 海馬瀬人。
 いよいよ間近に出発を控える今回の宇宙飛行プロジェクトの宇宙飛行士の一人だ。選抜試験や訓練でずば抜けた成績を残し、技術者としても深い知識を持っている。時折出される助言(という名の厳しい苦言)が憎たらしいほど適切なものだから、技術者チームのどのセクションメンバーも、偉才の集う飛行士メンバーからも一目置かれている、というより敬して遠ざけられている。尊敬に値する才能だとは思うが、彼には最大の難点があるのだ。

「海馬くん?」

 船外作業訓練用の深いプールではなく、飛行士の体力増強のための通常プールだ。開放されているから、センターの職員なら誰でも利用できるが、わざわざこんなところまで来てプールを利用する職員はあまり見かけない。広くて明るいプールは静かなものだ。

「海馬くーん?」

 大きく設計された天窓から降り注ぐ陽光が、きらきらと水面を光らせている。寝不足がちの目にはその光は強い。思わず目を細めていると、ざばりと大きな水音がした。

「海馬くん?」
「また貴様か」

 その責めるような口調に心外な思いを飲み込む。ボクだってね、来たくて来たわけじゃないんだよ!白羽の矢を突き立てられたの!チーフに!
 その複雑な思いを込めに込めた視線をものともせず、バスタオルで軽く体を拭いた海馬はパーカーを羽織った。ペタペタと裸足のまま近づいてくる。ぞんざいに拭った髪の毛からポタポタと水滴が落ちているのが目に付いた。

「またここに居るんだね」
「悪いか」
「訓練は?」
「指定された時間数はこなしたわ。体力増強にこうして個人的に時間を割いてまでいる。それを何故貴様のような技術の下っぱごときにとやかく言われねばならんのだ!」

 よく言うよ。言葉も無いとはこのことである。アシスタントチームの作成した綿密な訓練プログラムなんて見てもいやしないのだろう。宇宙に出て重大な問題が起こっても知らないぞ。
 海馬の最近のお気に入りは、このプールで泳ぐことだ。別にバカンス気分を味わっているわけでもない。ここは空がよく見える。

「アシスタントの人たちが右往左往で、技術も右往左往だって。楽しい?」
「フン、有象無象どもがつまらんことで大騒ぎしおって!象牙の塔などよくぞ言えたものだな!ワハハハハハ……!」
「本当に、もー……」

 最大の難点、それはそう、この性格だ。天才が紙一重な人柄を持つことはままあるが、これは悪い方に突出しすぎている。遊戯個人の視点から言えば、最初の出会いからして最悪だった。センターに入って初の大仕事がこの傍若無人な飛行士殿のデータ測定で、微細に渡ってぐちぐちといじめられたものである。ケンカ紛いの口論に発展したが、日本語の分かる職員が極少のセンターではそれは伝説となっている。あの海馬瀬人と渡り合う新人技術者――その実は「お前の母ちゃんデベソ」並の低次元の対立でしかなかったのだが。

「海馬くん、ほらおいで」
「何だ」
「髪濡れてるよ」

 プールサイドの椅子に海馬を引っ張って座らせて、片手にぶら下げていたタオルを引っ手繰って海馬の頭に被せる。悲しいことに、立ったままでは遊戯は海馬の頭に届かない。同い年なのに30cm近くの身長差、神様は意地悪だ。

「『ラッド』がオレを子供扱いか!生意気な奴め!」
「うるさいなー!どうせボクは童顔のチビだよ!」

 センターに来たばかりの頃はスキップを重ねた若き天才かと何度驚かれたことか。その度に浪人留年を繰り返した落ちこぼれです、と不名誉な弁明をしなければならないのは苦痛だった。見た目も技術者としても未熟、影で付けられたあだ名が『ラッド』だ。
 そんな人の嫌がる呼称を持ち出してまで文句を言うなら、さっさと立ち上がって訓練に戻ればいいのだ。口で言うことと反対に、海馬は椅子から動こうとしていない。だから遊戯も丁寧に海馬の髪の毛を拭いてやった。どこか大金持ちの家の息子だと聞いたことがあるから、誰かに世話を焼かれるのに慣れ過ぎているのかもしれない。

(……仕方ないなあ。)

 急に静かになった。海馬も遊戯も口を開かなくなったのだから当然だが、広大な空間に二人しか居ないせいで沈黙も際立つ。空調の音まで拾えそうだ。
 タオル越しに手を動かしたまま、ふと空を見上げた。今日は雲も少ない快晴だ。シャトル打ち上げに備えて忙しい最近は、データとしてでしか天気を見ていなかった。
 成層圏も電離層も突き抜けて、人工衛星を飛び越えてシャトルは飛び立つ。莫大なエネルギーと莫大な経費を消費して。

「……もういい」
「あ、うん」

 すっかりぐしゃぐしゃになった髪を、海馬は手櫛で整えた。あまり柔らかそうに見えない髪が、陽光を通して茶色に透き通っていた。タオル越しに確かに存在した生命体は、数週間後には空の向こうに飛び立つ。

「……どうして君なんかが宇宙飛行士になっちゃったのかなあ」
「なんかとは何だ!なんかとは!」

 宇宙飛行士ってやつは、ヒーローだ。まだ宇宙飛行が一般的でない現代において、全世界の少年少女が憧れる存在なのだ。何千、いや何万分の一を勝ち取って、人類に夢を与える職業だと遊戯は思う。アイドルなんかよりよっぽど。

「珍しくそのやかましい口を閉じていたかと思えば!当たり前だろうが!このオレ以外にこの大役が務まる人間はこの世に存在せんからだ!」
「……まあ、テレビ越しや新聞の写真越しじゃ性格は映らないもんね」
「貴様、このオレにケチを付ける気か!?何だその物言いは!貴様のような凡人以下の中も外も小さいような男などにこの大役が務まるとでも思っているのか!ハッ、断じて否だな!ワハハハハハ……!」

 確かにあらゆるところが大きな人ではあるものの、『夢を与える』なんてワードが泣いて逃げ出しそうな悪役笑いだ。願わくば船内テレビ中継なんかで海馬くんがインタビューされませんように。まあ、周囲のスタッフがそれだけは決死で阻止するだろうが。

「何でボク技術者になっちゃったんだろ……」

 君みたいな人飛ばすためなんかじゃなかったのにな!
 当然、海馬の髪を拭くためでもでもない。休憩中に使い走り紛いのことをさせられるためでもない。誰がそのために落ちこぼれから這い上がってここまで来るだろう。

「フン、そんなことも分からんのか!」
「……君は分かるの?」
「オレの宇宙からの通信を受け取るためだ!」

 意地の悪い笑みを浮かべて、海馬は立ち上がった。スタスタと更衣室へ向かって歩き出してしまう。

「それは通信チームの担当でしょ!」
「せいぜい地上で己の小器を悔やむことだな!ワハハハハ……!」
「聞いてよ!」

 いよいよどの部署も忙しさが立て込んできた。出発は一週間後に控えている。長期プログラムだから、長い時間をかけて綿密な計算を繰り返してきた。もちろん発射間際ともなれば、確認作業ぐらいしかやることは残されていない。だが一歩間違えば、何もかもが費えてしまうのだ。その確認作業こそが重大である。

「ユギ」
「はい!」
「『また』だ。行ってこい」
「……はい」

 どの部署もピリピリしていて、それは遊戯のセクションも例外ではなかった。チーフの有無を言わせない雰囲気に気圧されて、反論の余地も無い。丁度仕事は一段落ついたところだ。
 廊下を進みながら欠伸を漏らす。仕事に支障が出てはいけないから、充分な睡眠が義務付けられてはいる。だが最近あまり眠れないのだ。
 少し長い距離を歩いて、職員の休養施設のあるブロックに足を運ぶ。そして迷わずに分厚いドアを開いた。

「……映写中だ。外の札を見なかったのか」

 ぽっかりとドーム状に取られた空間には、椅子が敷き詰められている。中央に黒々と鎮座しているのはプラネタリウムだ。何もここまで来て人口の星空を見上げなくても、という気もするが、やはりセンターに集うのは宇宙が好きな人間たちばかりだ。プールと違って、このプラネタリウム室は人気がある。さすがに今の時期は海馬の貸切状態のようだが。

「……音声切ってあるね」
「聞いても無駄だ」

 何度も見たから、既に分かりきっていることだから、理由はそのあたりだろう。薄暗がりを用心して進み、海馬の隣に腰を降ろす。海馬は何も言わなかった。視線ひとつ寄越さない。

「久々にまた抜け出したの?」
「最近はさすがに忙しかったからな」
「……言っとくけど、抜け出さないのが普通だからね」
「オレは普通ではない」

 色んな意味でね。
 海馬と視線を同じくして上方を見やる。擬似夜空に引かれた線が、切られた音声が何と言っているかを説明していた。こうやって光が近いと、まるで自分が宇宙を泳いでいるような気分だ。そしてこの隣の男は、一週間後にはその気分を実際に体感するわけである。

「……帰れないね」
「何?」
「こんな宇宙に放り出されたら、地球には帰れないね」

 星空が動く。時間が過ぎたのか、季節が変わるのか。頭上にある星座をひとつひとつ目でなぞっていく。幼い頃に、数えるのも馬鹿らしいほど繰り返した作業だ。

「怖くない?」

 途方も無い闇を、標も失って進んでいかなければならないとしたら、それは絶望と同じだろう。ここの皆は宇宙が好きで集った。だがそんな皆に宇宙が必ずしも優しいわけではない。

「発射も、事故になればひどいことになる。すごい量のエネルギーを使うから、生還なんて無理だし。過去の事故のことは知ってるでしょ?宇宙に行けずに星になっちゃうかもしれない」

 一週間後に出発を控えた飛行士に、計画の成功を願う計画メンバーの一員がかける言葉としてはあまりにも無配慮だ。止めよう止めなければと思っているのに、口が勝手に回る。自室のベッドで何度も寝返りを打って抱えていたものが、どろりと染み出して消えない。

「何を馬鹿なことを言っている」
「……ごめん」
「まさか本気で、何故貴様がここに居るか分からんわけでもないのだろうが」

 そうならないように、ボクたちは居るんだ。それは知ってるよ。
 だがそれは万全ではないのだ。過去の事故が、計画チームの慢心で生まれたわけではないことは痛いほど知れた事実だろう。
 例えば夜空に大きなネットを張っておくとか、例えば命綱をずっと伸ばしておくとか、例えば大きなクッションで万一の事故を受け止めるとか、そんなことができたなら。でもそんなことが無理だから、昨日も今日も明日も、遊戯たちは右往左往する。

「オレが居るんだぞ」
「……え?」
「オレが居て失敗するわけが無い」

 言葉が出なかった。呆れたわけじゃない。いつもの物言いに確かに呆れた部分もあるにはあったが、それだけではない。思わず気の抜けた笑いが漏れた。初めてニセモノの空から視線を外した海馬も、自信に溢れた皮肉げな笑みだ。

「……そうだね」

 なんで遊戯が笑ったか、なんで表情とうらはらに胸がこんなに痛むのか、きっと海馬には分からない。逆だって同じだ。何故海馬が笑うのかも遊戯には正しくは分からない。いくら宇宙に行くって言ったって、遊戯も海馬もテレパシーすら使えないただの人間同士だ。寝不足で疲弊した神経がうっかり涙をこぼさないようにするのに、とても苦心した。

「まさかこのオレが使い走りに出されるとはな」
「……海馬くん」

 休養施設の中央にある、中庭のベンチに深く腰掛けている目前に、長身が立ち塞がった。日光を遮ったその顔はひどい渋面だ。思わず苦笑する。
 今日も雲ひとつ無い快晴だ。明日の打ち上げは予定通り実行されるだろう。

「昨日までで最終調整は済んだよ。あとは全体のミーティングだけでしょ」
「それに貴様が居ないから、こうしてオレがわざわざ足を運んでやる破目になったのだろうが!屈辱だ……!貴様ごとき下っ端をこのオレに押し付けるなど!」
「ボクたちシャトル技術はほとんど出る意味無いよ。段取りに関係ないでしょ?明日は予定通り発射されるんだろうし。それにボク……ほら、君が言うみたいに、下っ端だしさ」

 海馬の表情がみるみる怒気に染まっていくのが分かった。殴られるかと思って軽く姿勢を正す。いつも探しに行かされていたのは遊戯なのだから、一度くらいは逆の立場になってくれてもいいものを。だがいくら待っても、予想した罵声も拳も出てこなかった。

「そうだな。貴様が何をどうあがこうと、明日は予定通りの出発だ」
「……うん」
「怖いのは貴様だ」

 胸元を掴まれて、ぐっと顔を近づけられる。やさぐれた表情を戸惑いに転じさせると、海馬は繰り返した。宇宙を怖がっているのは貴様の方だ。

「兄が死んだことがそんなにみっともない恐怖を生んだのか?だったら何故ここに来た?兄がまだ生きて宇宙を彷徨っているとでも思ってか!?そんな甘い期待はここに入った時点でとうに消えていただろうが!」
「な、何で……!」
「調べればそんなものはすぐに分かるわ!」

 宇宙に出て、予定軌道を大きく外れ、ついには通信の途絶えたストローク3号。遊戯の憧れだった、歳の離れた兄を乗せた夢の船。出発の華々しさに比べて、その計画の失敗は大きく伝えられなかった。生還の可能性はゼロではないと信じる地上チームや乗員の家族に配慮してだ。だが十数年経つ今も、その船体すら確認できない。

「オレは宇宙へ行くぞ!」

 海馬の目は真剣だった。常に怜悧に研ぎ澄まされてはいるが、ここまで熱を持った目は初めて見た。慄きそうなほどの執着と強固な意志を感じる。遊戯は口を開くことすらできなかった。

「このしがらみばかりの地上を睥睨してやる!それがこのオレの夢だ!」
「しがらみ……?」
「貴様はどうだ!そんな死臭の漂う腐った夢に縋り付いてここまで来たのか!ならばオレは貴様を軽蔑するまでだ!一生ここで寝ていろ!」

 襟を解放されて、ベンチに倒れ込む。遊戯を探しに来たはずの海馬は、遊戯を振り返りもせずに歩き去って行った。陽光を受けて暖められたベンチに、頬を預けて目を閉じる。

 本当は、宇宙飛行士になりたかった。
 兄の見た人類の夢を自分も見たかった。
 兄の消息に縋ったわけじゃない。
 兄と自分の夢を諦めたくないだけだった。

 朝早く、集ったセクションのメンバーにからかわれながら押し出された。その先では、軽い運動を終えてシャトルの確認に来た海馬が居る。何故かプロジェクトのメンバーに海馬と揉めたことが広がってしまっていた。娯楽のあまり無い閉鎖環境だから、面白がって噂が伝播したのだろうか。しばらくは帰ってこないんだから禍根は残すな、いつもと違って早口の砕けた口調だからあまり聞き取れないが、察するにそんなことを言われている。

「海馬くん……その……」
「何だこの腰抜けが!貴様にこのオレに話しかける資格があるとでも思っているのか!?思っているのならとんだ勘違いだ!さっさとその思い上がりを正すんだな!」
「なっ……だ、だから……こうして謝ろうと思って来たんじゃないか!」
「フン、じゃあ土下座でもしろ。土下座も知らん奴ばかりだからな。さぞ見物だろうよ!ワハハハハ……!」
「……もういいよ!謝っても謝んなくても君って変わらないし!本当、最初っから偉そうだし人の嫌なことばっかり言うし!小学校で習わなかったの!?自分がされて嫌なことは人にしないってさ!」
「ハッ!オレにはされて嫌なことなど無いぞ!されるまえにこちらから仕掛けるからな!ワハハハハハハ……!」
「屁理屈だよそれ!あと笑いすぎ!」

 肩の力がどっと抜けた。もう一言だって交わしてもらえないのではないかと思っていたのだ。だが良くも悪くも海馬はいつも通りだ。いつも通りの過剰な自信家で、いつも通りの嫌味ったらしさで、いつも通りに偉そうだ。ついつい、大きなため息が出る。

「何でボク、君なんかのこと好きなんだろう……」

 ちらり、と確認した海馬の表情は、あまり変わらなかった。数秒沈黙して、遊戯の表情を探るように観察してくる。そして随分見慣れた斜に構えた笑みを浮かべた。

「簡単だ。オレが宇宙に行くからだ」

 その答えは簡潔だったが、当たっているような当たっていないような、漠然とした形をしている。分かっているのかいないのか。きっと分かっていないのだろう。我慢できずに笑った。苦しい胸のつかえが少しだけ楽になった気がした。

「行ってらっしゃい」
「……フン」

 海馬が踵を返す。最後の最後まで各セクションのチーフをいじめ抜くつもりなのだろう。ほどほどにしなよ、と声をかけようとしたところで海馬が不意に振り返った。

「オレはここに必ず帰ってくる」
「え……」
「これでいいか、臆病者」

 何でもないことのように、海馬が歩き去っていく。対する遊戯はその場から動けなかった。人類にテレパシー能力が備わっていなかったことに感謝したい。海馬の探査する惑星で、テレパシーの使える異星人が発見されないことを願うばかりだ。

 おかえりって言わせてね、ボクのアストロノート。

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