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Yaong-Yaong-Yeon! (パラレル)



 何かが、動いている気配がする。とても大きなものがすぐ近くで。縫いつけられたように固い瞼をなんとかこじ開けようと努力してみる。ん? と唸り声のような声をあげ、手をさまよわせる。そういえば今日は猫がいて。ベッドから退いてくれないから抱えて寝て。じゃあ動いてたのも猫か。

「ああ、すみません。起こしてしまいました?」

 いやいや、謝るほどじゃないんだけど。そう答えたつもりが、んんん……という熊みたいな唸り声になった。ふふ、呆れたように吐息が揺れる。いつかも波間で聞いた笑みの音。

「いつもはアンが扉を少し開けてくれているんですけど。今日は閉まっているようなので、長居してしまいました」

 そうだったのか。知らなかった。今度は自分も気を付けておこうと決める。泥沼みたいな眠りの誘惑からなんとか首を出し、目をもう少しこじ開ける。ベッドに付いているのは長い腕。その先には、あの日見たような呆れた──けれど優しい色をした瞳が待ち構えている。

「ボクも、アナタとはもっと話してみたいですよ。面白いですから」

 学校中からイケメンだアサシンだ騒がれる顔が、ぐっと近づいてきた。そして舌をちらりと覗かせて鼻先を軽く撫でる。ひやりとした感触がくすぐったくて少し笑ってしまった。重い体をなんとか傾けてキスを返す。またあの、きょとんとした顔が見られて嬉しい。

「おやすみなさい」
「うん、おやすみ。はじゅん……」

 呆れとも違う、何とも言えない笑みをもうちょっとだけ見ていたかったが、眠気に勝てなかった。そしてそのまま再び泥沼に沈み込み──

「え!?」

 遅刻ギリギリの強い日差しの中飛び起きた。ベッドの上に猫の姿も無ければ、当然鼻先に濡れた感覚もない。わざわざそんなことを確かめている自分がものすごくダサい気がして恥ずかしい。

「ええ……」

 思わず頭を抱えてその場に猫みたいに丸まった。もう先行くからね! 怒り心頭のアンの声が全然耳に入らない。俺はなんて夢を。っていうかなんでこんな夢を。

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