全てが終わって、鱗滝の家から禰豆子と二人で家に戻る道のり、久々に手を繋いで歩いた。もう禰豆子も十七だ。手を引いてやるような歳でも無いけれど、どちらからとも無く手を重ねていた。
「お兄ちゃん」
「ん?」
炭治郎が優しく返事をすると、禰豆子は嬉しそうに微笑む。いつものことなのに、それがなんだかひどく寂しい。禰豆子も同じ気持ちなんだろうか。微笑みの中、何かをこらえるように眉根に力が入っている。匂いは変わらないから何を考えているかまでは分からない。ずっと悲しい匂いがしている。
「善逸さんが言ってた。鬼と戦って命を落とした人はみんな、来世で絶対に幸せになるはずだって。そうならないとおかしいって。わんわん泣きながら言うんだよ。私、頭撫でちゃった」
「そうか」
なんだかその姿が鮮明に思い描けて笑ってしまった。善逸は本当に優しい。禰豆子にかけてくれた言葉が、炭治郎にまで寄り添ってくれる。
「来世か」
考えたことも無かった。死んだらきっと家族の元に帰るんだろうとは漠然と思ってきたけれど、もしかしたらあるんだろうか。また、あの人と微笑み合って言葉を交わすいつかが。
「俺、義勇さんに言えなかったことがある」
「ん?」
今度は禰豆子が優しく炭治郎に返事をくれた。それに微笑んで空を見上げる。雲一つない青空だ。朝陽に羽を艶々輝かせる鴉が春風を切って旋回している。
「一緒に、来てくれませんかって。俺たちの家に義勇さんが居てくれたらなあって思ったんだよ」
善逸や伊之助たちと一緒に家に来てもらって、そのまま過ごしてもらったらどんなにか嬉しいだろうと思った。心底いい思いつきだと思ったのに、結局口に出せなかった。
「でも言ってたらきっと困っただろうなあ、義勇さん」
「そうかな」
「うん、多分。優しい人だろう」
「そうだね」
いつのまにか炭治郎は多分、義勇を気づかない内にごく近いところに置いていたのだと思う。家族と言ってしまいたくなるくらいの近さに。けれど炭治郎はなんとなく鼻先で悟っていた。義勇はきっと、炭治郎や禰豆子の世話になることを喜ばない。
「来世があるなら、その時じっくりやることにするよ」
来世はとびきり平和な世界だといい。義勇にとんでもない大恩なんか無くて、ただただ炭治郎は義勇を慕って、ちょっとずつでも仲良くなって、お互いに年寄りになっても家族みたいに付き合っていけたらとってもいい。
ふふっと、空気が揺れた。見れば禰豆子が襟巻に鼻を押しつけて笑っている。
「なんだかそれ、義勇さんがお嫁にほしかったって言ってるみたい」
なっ、と言葉に詰まって真っ赤になって否定した。そうするとますます、禰豆子の笑みは深くなるのだった。