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大喝采 (パラレル)



「三日月さん、また襲われたんだって?」

 邸に戻り、広間で夕餉を取る最中、石切丸が事もなげに三日月へ話を振った。答えを聞く気があるのか無いのか、これはいい、とハモの天ぷらに舌鼓を打っている。

「敵も本丸がどこか分かっているらしいなあ」

 白飯を掻き込んでいるのは岩融だ。こちらも食べる手は止めないが、石切丸よりも難しい表情を浮かべている。

 突如現れた『時代遡行軍』に対抗するために手を貸してほしい。そう乞われてからもう十数年が経つ。三日月たちの成果を見極めた上でいずれは「刀剣男士」として遡行軍と束になって戦わせたいらしいが、この時代の人間の考えることは面妖だ。そして、少しばかり三日月たちには都合が良い。

「ぬかなかったんですか?」

 大根の漬物をパリパリやりながら、今剣は三日月の頬の傷をじろじろと眺めている。三条の銘を刻まれたものとしての矜持がそこに滲んで見えた。三日月は少し眉尻を下げて笑みを返すに留めて謝罪に代える。

「健気なことじゃのう」

 一人だけひとつ多い皿から油揚げを摘み上げ、小狐丸は隣の三日月を呆れたように見遣った。健気、健気か。その語感が面白くてふっふと笑う。吸い物の椀と箸を膳の上に置き、両手を掲げた。

 ――パンッ、短手ひとつ。

 銀色の線が部屋の行灯の光を受けて赤く輝く。三日月の手の中にずしりと馴染んだ重みがかかる。白波のように三日月の刃紋がちらちらと光っている。天下五剣の中で最も美しいと称されてきた、それは三日月自身だ。ふふ、三日月はまた笑った。

「これが押してダメなら、というやつかもしれんなあ」

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